BARIQUAND

バリカン
2008 / 27min / カラー / ホラー



 
PLAY FEATURE

BARIQUAND from Naoki Otsuki on Vimeo.


STORY

ジュンクンとその彼女、そして友人佐藤の三人は、冬の旅行で海辺の「ペンション荒潮」へと車を走らせていた。
その道のりの途中、雪の降る山道でヒッチハイクをしていたバックパッカーの原さんと出会う。偶然同じペンションへと向かっていた原さんを三人は快く受け入れ、四人でペンションへと向かうのであった。

ペンション荒潮に着き、楽しい時間を過ごしていた四人。
だが親友の姿が突然見当たらなくなり、血のついた彼の服が見つかる。
真相を探るため一人夜の闇の中へと消えていく原さん。
だがその直後、バリカンを持ったサイコ野郎が突然ジュンクンに襲い掛かる!

PRODUCTION NOTE


血みどろホラーを撮るという決意
 『バリカン』の制作が決定したのは2008年1月、大学の課題が発表されてからであった。課題テーマは“破壊”。一発大きなことをしてやろうと考えていた監督は前から密かに温めていた血みどろB級ホラー、『BARIQUAND』の映画化を決意する。展開はいたってシンプルかつベタなものであった、ただ一つ凶器が“バリカン”であることを除いて。 「B級ホラーの展開なんてどれも大体同じようなもの。もし展開がズバ抜けて素晴らしく新しい風が吹き込まれたものならば、それはもはやB級ではない。だからこそB級ホラーには“ちょっとしたオプション”が重要になってくる。今回はそれがバリカンという意外性だったわけだ。」と監督は語る。

 準備は予想以上に困難なものであった。まず舞台が“ペンション”という密室空間で尚且つ人里はなれた場所でなければならなかった。また、画面内にキャスト以外の通行人が写りこむことなど絶対にあってはならなかった。 そこで学生であることを生かし、大学の研修施設である『黒田村アートビレッジ』(後にBARIQUAND2の舞台となる)での撮影を検討する。しかし季節は雪の降る冬真っ只中、暖房設備の一切ないこの施設での宿泊は冗談抜きで死を意味していた。要するに“宿泊禁止”ということである。
やむなく別の場所を検討する、と、大学にもう一つ研修施設があることを知る。しかしその場所は京都市から車で4時間もかかる海辺にあった。だが合評の日程を目前にし、躊躇している余裕は一切なかったのであった。


「五人乗りの車にキャストを四人乗せる」という事

 ここに当時のスケジュールのメモがある。

1/13 成人式
1/14 シナリオ完成・準備物のリストアップ・キャストアポ取り
1/15 京都へ戻り教学で大学施設の使用届け本提出
1/16〜1/18 準備
1/19〜1/20 徹夜で撮影
1/21〜1/29 編集
1/30 朝まで徹夜で完成させて合掌合評

(13日までは成人式のVTR作成で一切動けなかった。)

 施設の予約も切羽詰まっていたが、そんなことよりまずキャストが決まっていなかった。このメモを書いたのが1月9日、その時点で決定していたのは『原さん』役の今井、『ジュンクン』役の牛尾だけであった。そしてこの作品のために動き始められるのが14日から。 施設の使用届けには参加者全員の名前が必要であり、無理を言って延長してもらった最終受付期限が15日であった。まさに事態は最悪、絶望的だった。
 15日、知り合いに片っ端から連絡するもよい返事は返って来ない。そんな中、今井からの連絡、こんな絶望的な状況でキャスト二人を見つけたという。事前にキャスト探しを頼んでいたのだが、さすがは今井、役者のつては本当に広い、本当に助かった。 そんなわけで『女』役に葛川(当初はユミコという名前があったがシナリオ中一度も名前を出すことがなかったため「女」となってしまった)、『佐藤』役に坂川が参加することになり無事施設の予約も完了した。
 だがここで一つ大事なことを忘れていた。実家から借りてくる予定の車は五人乗り、キャスト四人と監督、すなわちそれはスタッフゼロを意味し、監督自らが照明をいじりながらカメラとマイクを持って撮影するということを意味していたのであった。




毎度よろしく今日も雨
ペンションに響く謎のクラック音

 京都から4時間かけて“ペンション”へ到着。そこは周囲に民家もなく、近くを走る自動車の走行音すら聞こえない高台にあった。まさにホラー映画を撮るにはうってつけの場所、ゴーストハウスの雰囲気を見事に醸し出していた。 だが、予定していた雪景色は無く雨だけが降っており、急遽セリフがいくつか書き換えられた。
 外は雨でも多くのシーンは室内で、撮影自体は順調に進んでいた。夜になり雨はさらに激しさを増し、外でバーベキューをするシーンはベランダで土砂降りの夜の海を眺めてシットリ酒を飲むシーンに変更された。 ここから『ジュンクン』の“キャンプファイアがしたくても毎回雨で出来ない”というジンクスが生まれ、続編でもその威力を見事発揮し監督を泣かせた。(ちなみに雪は追加撮影でやっと降った。よって本編中雪が降っているシーンは追加撮影で撮られたものである。)
 また、この“ペンション”はどうやら色々と“ヤバイ”らしく、夜になると至るところからクラック音やドアノブをカタカタする音が響くようになった。一部のキャストは何かの気配を感じ、全員が撮影とは違うところで緊迫した状態になっていた。 もともと二階建ての大きな研修施設に五人だけで宿泊するということ自体だいぶ間違っているのに、その宿泊の目的がホラー映画の撮影というのだからそういう方向に意識が向かないはずがない。 まぁホラー映画を撮ろうとするだけの変人である監督は笑って楽しんでいたわけではあるが。




風呂場での惨殺シーン、本当に怖いのは管理人の存在
撮影スピードアップの妙技、ハンディカメラ


 撮影自体は好調だったが、スケジュールを詰めすぎていたため撮影状況は押しに押していた。そこで急遽カメラから三脚が取り外された。撮影スピードを上げるためハンディカメラという手段が取られたのだ。 結果としてこの作戦は大成功だった、三脚使用時よりも断然スピーディーでスムーズであった。しかもハンディカメラの揺れが登場人物の微妙な心理状態を描写し、演出としても非常に効果的だった。
 こうして向かえた最終日の朝、クライマックスの風呂場での惨殺シーンが撮影された。この日のために約2リットル用意された自家製血のりはキャストに「甘すぎる」「吐き気がする」「ココア臭くて暫く鼻から臭いが離れない」「ココア飲んだら思い出す」など非常に不評だった。 だがだからと言って使わないという訳にはいかない。

 風呂場でのシーンはまさに戦場だった。血のりが飛び散りカメラが振り回されバリカンの騒々しい動作音が密閉された風呂場に響き渡り、役者が泣き叫び、監督がこらえきれず吹き出し笑いをしてNGが連発する、そんな風景だった。 だがこれほど騒々しいのには訳があった。昼前に管理人が見回りにくるということになっていたからだ。「施設借りる時に風呂場で血のりバラ撒きますとは言えないじゃない?そりゃもちろん現状復帰は100%行うのは絶対なので、言わなくても問題ないかなと。しかし管理人さんが来るとなると話は別だ。 復帰後の状況を見てもらいながら『血のり撒きましたー』と言うのは許されても、“真っ最中”に入ってこられて『今すぐ中止しろ』などと言われたらそれこそ洒落にならない。まぁ管理人さんはとても協力的な良い方だったから、きちんと説明したら理解してもらえるとは思う。」と監督は語る。 だが予想通り撮影はすぐには終わらず、管理人は来てしまうのであった。「まぁそうなるだろうなとは思ってた。だからきちんと説明したよ、『血のりを使った撮影をして風呂場でそれを洗い流してて、ちょっとショッキングなので見ないほうがいいですよ。』って(笑)。まぁ間違っちゃいない。」、 そんな感じで、スケジュールが押していたためカットされた部分はあるにしても何とか無事問題のシーンの撮影を終えることが出来たのであった。

数多く生まれた「原さんの名言」、もちろんブラック

 まさに今回のマスコットキャラともいうべきなのが今井演じる『原さん』だ。この『BARIQUAND』では原さんの名言を数多く聞くことが出来る。「これが仕上げのソースだよぉ〜。」「君たちと一緒じゃぁー、無いよねぇー?」など、 どこが名言なのかサッパリ理解できないセリフも、言い方が面白いのか何なのか名言という扱いになっている。余談だが、『BARIQUAND2』のスタッフ・キャストは「これが仕上げの○○だよぉ〜。」と名言を応用したハイなテクニックを連発して過酷な撮影に耐えしのいでいた。
 そんな中でもついにセリフにして発してしまったということで話題になったのが「うーん、もちろんブラックだねぇ。」の一言。これまで同監督の作品ではシナリオに「もちろんブラック」というト書きがどこかにほぼ必ず書き込まれていた。 その由来は明らかではないが「昔のシナリオでコーヒーを説明するト書きの中に『コーヒーが置いてある、もちろんブラック』というものがあり、それを突っ込まれてから調子に乗って毎回書いている」という説がある。 何にせよ関係者の間では有名な話である。それが今回ついにセリフとして登場してしまったという。(ちなみに『BARIQUAND2』ではさらに調子に乗って、このセリフをカメラ目線で言わせている。)

初の合宿ロケ、そこで掴んだものとは
 こうして初の合宿による撮影は無事クランクアップを迎えたのだが、今回の撮影で学んだことは非常に多かった。合宿ということもありキャストと撮影に関することを深く話し合えたのだが、そこで役者の演技に対する考え方を聞くことが出来たのがとても大きかった。やはり映画は一人で撮るものではない。
 時間の経過をとても長く感じた三日間の撮影は終わり、合評にもラッシュを提出することが出来た。その後、音楽の調整やカラコレ、バリカンにチェーンソーの音を被せる等の作業が行われ、個人制作として完全版が完成した。






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